下北沢の話。(その2)
今でも忘れられない出来事がある。
小学校低学年のある日、僕は母に手をひかれて下北沢の街を歩いていた。
なぜ下北沢にいたのかはまったく覚えていない。シェルターにでも行ったのだろうか。いや違うな。まぁいいや。
母は少し酒癖が悪いけど、様々なマナーにとても厳格な人でそういった類いの躾にとても厳しい人だった。
その中でも特に食事のマナーには厳しく、酒癖が悪いクセに箸の持ち方やフォークの使い方など細かく指導された記憶がある。(それなのに今あんまりキレイにお箸持てないや…ごめんよかーちゃん)
そんな母が下北沢のパン屋で突然カレーパンを買ってくれたのでとても驚いた。
買い食いはいけないものだと口をすっぱくして言われていたからだ。
しかもあろうことか母はそれを歩きながらムシャムシャと食べ出した。
普段絶対にそんなことをしない人なので
「お母さん、そんなことしていいの?」
とおっかなびっくり尋ねると、彼女はニヤリと笑ってこう言った。
「洋平、この街はね、シモキタはこういうことをしてもいい街なの。
ほらあんたも食べな」
思えばあれが少し悪いことをしている時のドキドキ感の原体験だったのかもしれない。
あれから20年が経った。
あの日母と手を繋いで歩いた「こういうことをしてもいい街」で毎日こういうことよりももっと変なことをして生活している。
今は遠く離れている母ちゃん、そっちはどうだいうまくやってるかい、こっちはこうさどうにもならんよ、今んとこはまぁそんな感じだよ。また会いにいくよ。
井の頭線に10分くらい揺られて。(実家めちゃ近い)
今日は雨だけど気分はなぜかサニーデイサービスだ。
シモカワ