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シモカワノニッキ

あたまの中がカユいんだ。

立ち飲みの話。

座って飲むのではない、中腰で飲むのでもない、寝ながら飲むのでもない。

直立不動、立って飲むのが好きなのだ。

 

一口に立ち飲み屋と言ってもその種類は多種多様。最近では瀟洒なバルのような形態の店がブームなようだが、僕が好きなのは狭くて汚くて店外まで焼き物の煙と人の活気がたっぷりと溢れ出ているような店だ。

 

隣の人と肩と肩が触れそうな距離で酒とツマミを楽しむ。

自然に人と人との距離が近くなる。

 

立ち飲み屋に行った時には、積極的に他のお客さんに話しかけるようにしている。

「何飲んでるんですか?」

「今日は暑いですねぇ」

政治と宗教と野球の話以外だったら何でもいい。陽気に応えてくれる人もいれば、あまり話してくれない人もいる(こういう人にはすぐに話しをやめるのがマナーだ。しんみり飲みたい夜もある)。仕事や家族の話をしてくれる人もいれば、猥談になることもある。なぜかお説教をいただくことがあるかと思えば、そういう人が突然ご馳走してくれたりもする。本当に面白い。

ただ、皆、あまりダラダラと長くは喋らない。

仮初めの会話を交わし、それぞれの場所へ帰っていく。皆、立ち飲み屋とはそういう場所であることを理解している。温かい人間味が溢れながらもドライなケジメがある。

そういう雰囲気がたまらなく好きだから、僕は立ち飲み屋に通うのだ。これは飲み屋だけの話ではなく、普段の人間関係を構築する際に大切にしている指針でもある。なかなか上手くいかないことも多いのだけれども。

 

東京都台東区浅草橋に「西口やきとん」という店がある。

立ち飲みだけでなく、座って飲める席もあるが、もちろん立ち飲みを選択する。大汗をかきながら串を焼いてくれている様子を間近で見ながら名物のレモンハイボールを流し込む。至福の時間だ。

浅草橋という街は繊維工場や様々な工業部品を扱っている会社が集中している地域なので、お客さんにはサラリーマンの他に職人さんも多い。

先日この店で話をした方は、アクセサリー職人で今度自分のプロデュースしたアクセサリーが大きな百貨店に初めて並ぶのだと嬉しそうに話してくれた。

なんだかこちらも嬉しくなる。

 

東京都品川区武蔵小山に「晩杯屋」という店がある。

この店は客と店員の立場が逆転している。店のルールを守らないと容赦なく怒られる。最初は少しおっかなびっくり、だけど慣れるとこれがなぜだか心地よい。酒もツマミも驚くほど安くて美味いのだがその値段を維持するために店は最小人数で回していて、客もそのオペレーションに協力してほしい、という考え方のようだ。

 

一、二杯程度飲んだらサッと店を出る。長居は無用。

夜風にあたりながらぼんやりと考える。このまま帰って寝てしまおうか。

誰かを誘ってもう一軒というのもいいなと思い、携帯に目をやると電池が切れていたりする。湿気を含んだ生温い空気の中、赤提灯の間を今宵もふらふらと歩いていく。

下人の行方は誰も知らない。