シモカワノニッキ

あたまの中がカユいんだ。

クロネコさんの話。

やばいな。

 

毎日できるだけ文字を書く、と宣言したにもかかわらずだいぶ間隔が空いてしまった。

書くことを決めて書き出すよりもなにも考えずにキーボードをぽちぽちやったほうがいいのかもしれない。最近何があったかなぁ…アルコールは記憶の輪郭をすぐにぼかしてしまうね。よくない。

 

そうそう、僕は荷物を受け取るのが本当に下手くそでしょっちゅう不在票を入れさせてしまうのだけど、特にあの黒い猫がトレードマークの運送会社さんの時にそれが顕著なんですよ。いや、もちろん偶然で他意はないのだけど。

 

5分くらい外にタバコ吸いに行っている間に来られちゃうとかね。

そんでこないだの話なんだけど、近所のコンビニに買い物に行って帰ってきたらちょうど黒猫さんが来たところでマンションの前で鉢合わせたのよ。

ホッピーのホの字も知らないようなさわやかな好青年。たぶん20歳そこそこじゃないかしら。絶対パチ屋に並んだこととかないよ。で、その青年が満面の笑顔で言うわけよ

 

「あ、下川さん?よかったぁ…やっと会えたぁ…!」

 

黒猫さんいつもありがとうございます。

そして僕をドキドキさせてどうしようというのでしょうか。

 

シモカワ

 

下北沢の話。(その2)

今でも忘れられない出来事がある。

 

小学校低学年のある日、僕は母に手をひかれて下北沢の街を歩いていた。

なぜ下北沢にいたのかはまったく覚えていない。シェルターにでも行ったのだろうか。いや違うな。まぁいいや。

 

母は少し酒癖が悪いけど、様々なマナーにとても厳格な人でそういった類いの躾にとても厳しい人だった。

その中でも特に食事のマナーには厳しく、酒癖が悪いクセに箸の持ち方やフォークの使い方など細かく指導された記憶がある。(それなのに今あんまりキレイにお箸持てないや…ごめんよかーちゃん)

 

そんな母が下北沢のパン屋で突然カレーパンを買ってくれたのでとても驚いた。

買い食いはいけないものだと口をすっぱくして言われていたからだ。

 

しかもあろうことか母はそれを歩きながらムシャムシャと食べ出した。

 

普段絶対にそんなことをしない人なので

「お母さん、そんなことしていいの?」

とおっかなびっくり尋ねると、彼女はニヤリと笑ってこう言った。

 

「洋平、この街はね、シモキタはこういうことをしてもいい街なの。

ほらあんたも食べな」

 

思えばあれが少し悪いことをしている時のドキドキ感の原体験だったのかもしれない。

 

あれから20年が経った。

あの日母と手を繋いで歩いた「こういうことをしてもいい街」で毎日こういうことよりももっと変なことをして生活している。

今は遠く離れている母ちゃん、そっちはどうだいうまくやってるかい、こっちはこうさどうにもならんよ、今んとこはまぁそんな感じだよ。また会いにいくよ。

 

 

井の頭線に10分くらい揺られて。(実家めちゃ近い)

 

今日は雨だけど気分はなぜかサニーデイサービスだ。

 

シモカワ

今夜もどこかである話。

抹茶フラペチーノグランデミスト

いや、違う。

抹茶フラッペロイヤルストレートデミタス

いや、これも違う気がする。

 

とにかくそんな長くて小難しい液体に突き刺さった真っ赤なストローを指でクルクルと回しながらミサコは口を開いた。

 

「ようへいくん、はなしってなぁに?」

 

分速30文字くらいの速度でゆっくりと彼女が喋る。

俺は緊張していた。なにせこんな経験初めてなのだ。

 

「単刀直入に言うね、今朝三輪ちゃんから連絡があって昨日の夜、三茶の三角地帯でミサコを見たって言うんだ。知らない男と手を繋いで歩いてたって…。しかも普通の繋ぎ方じゃなくてあのアイアンクローみたいな…わかるよね?」

 

「恋人繋ぎ?」

 

「あぁ、それそれ。で見間違いだろうって言ったんだけどそんなはずはないって…。ミサコさ、昨日の夜何してた?」

 

「え、三茶で飲んでたよ。それあたしだよ」

 

あっけらかんとした顔でミサコが答える。俺はびっくりして腰を抜かしそうになった。

 

「え?うそでしょ、なんで?」

 

「なんでって…あたしその人のこと好きだもん」

 

肩甲骨のあたりを冷たい汗がつたう。

 

「え、いやちょっと待ってよ。おかしいでしょ…俺達付き合ってるんだよね?」

 

震える声でそう告げるとミサコはさらにとんでもないことを言い出した。

 

「え?そうなの?あたしそんなつもりないんだけどなー」

 

ミサコとは先輩の菅野さんの紹介で3年前に知り合った。

テクノミュージック好きという共通点もありすぐに意気投合。交際をはじめてもう2年半になる。色々な場所に行ったし、タイコクラブもWIREソニックマニアも2年連続で一緒に参戦した。もちろん恋人同士がするようなことはすべてすませたし、俺の母親とも一度会っている。彼女のバッグについているスティッチのぬいぐるみはディズニーランドに行ったときに俺が買ってやったものだ。

 

「いや、ちょ、ちょっと待ってよ…意味がわからない…ウソだよね?」

 

すがるような声で言うとミサコは要領を得ないといった目で僕を見つめながらさらに追い打ちをかけてきた。

 

「いや、ようへいくんのことは好きだよ。でもようへいくん一人だけなんて一度も言ってないよね?あたし一人だけに絞るなんてぜったい嫌だよ。びっくりしたー急に変なこと言い出すんだもん。そもそも”付き合う”ってなんなんだろうね」

 

唖然として返事ができずにいると、さらに彼女はこう続ける。

 

「しかもさ、いや、いいんだけどね、ようへいくんって菅野さんの紹介だよね?なんていうか…あたしが自分で見つけて来た人じゃないっていうか…菅野さんの推しも強かったんだよね…あ、ごめん、いや本当に好きなんだよ。ようへいくんのことは」

 

 

この子は何を言っているのか。

目の前にいるかわいらしい女性のような物体はもしかして異星人か何かじゃないのか。

 

「いや、でも、俺は付き合ってると思ってるし、もちろんミサコだけだし、やっぱり、そういうのはおかし…」

 

「あー!わかったわかった!」

 

俺の話を遮ると。

ミサコはトドメを刺してきた。

 

「じゃあさ、もう会うのやめよっか?」

 

負けるというのは気分が悪い、ある一部のことを除いては。

血液の温度が2度あがる。彼女の広角があがって八重歯が見えた。

この微笑は爆弾だ。幽遊白書を思い出す。

 

俺はミサコが好きだ。

 

もし俺の奥歯に爆弾のスイッチがついていたなら

今頃俺の身体は粉々になっていたに違いない。

 

 

【キャスト】

ようへいくん・・・広告制作会社

三角地帯の男・・・広告制作会社B

菅野さん・・・・・広告代理店

三輪ちゃん・・・・広告会社営業

 

ミサコ・・・・・・クライアント

 

シモカワ

 

 

 

 

 

ぜひわかってほしい話。

ご理解いただきたいことがある。

もちろん、酒席での会話をしょっちゅう忘れる件についてである。

 

まず最初にわかっていただきたいのは悪気はまったくないということだ。

「話したことを覚えていない=会話した人間に興味がない失礼なヤツ」という指摘をよくされるがこれは違う。僕はいつでも一生懸命人の話を聞いている。けれどどうしても忘れてしまう。すべては酒のせいなのだ。

やっかいなのは酒量と忘却が比例しないという点だ。

朝まで飲んでも鮮明に覚えていることもあれば数杯ひっかけただけなのにまったく覚えていない時もある。

 

由々しき問題だ。

これを解決するため、一時期酒席の備忘録をその場でつけるということをしていた。

「3月17日 鈴木さん 〇〇の話をする」という具合にメモをつけるのだ。

しかしこれは失敗に終わった。メモしたこと自体を忘れてしまうのと、飲んでいる最中に書記みたいなことをするのはあまりにも無礼だからである。

忘れること自体がすさまじく無礼なのだが今回そこには目をつぶってほしい。

 

なので最近は話をはじめる前に確認作業をするということを徹底している。

「この話したっけ?」「あのさ、これは前言ったかもしれないんだけど…」というような枕詞をつけるのだ。これはなかなか効果的で大概の人は「聞いてないよ」「聞いたけどもう一度話していいよ」「は?あんたと飲むの初めてなんだけど?」等の優しい言葉を返してくれる。

だが、しょっちゅう飲む親しい友人だとそうもいかない。

 

「ねぇ、〇〇がさ…あ、この話したっけ?」

「うーんどうだろうねぇ(ニヤニヤ)」

「まぁいいや…でさ…(話し終わる)」

「ねぇシモ、その話オレにするの何度目だと思う?」

 

くそっ。悪戯っぽく笑うんじゃねぇ。こっちは真剣なんだぶっ飛ばすぞ。

これが世間話程度ならまだ許されるかもしれないがもっと重要なことだと笑えない。

例をあげるとその場でなんらかの約束をしてしまうのが怖くてしょうがない。「え?こないだ一緒に会社辞めて海賊王になるって約束したよね?」と言われても自信を持って否定ができない。

だから酒席で約束をした場合は後日必ずリマインドをお願いしている。

なんて迷惑なやつだろうか。

 

えっと着地がわからなくなってきた。

つまりこれから「この話したっけ?」を冒頭に連発しても「こいつタイムリープでもしてきたのか?」とは思わず、暖かい目で見てやってほしいのです。

ぜひともよろしくお願いします。

 

あれ、このブログ前に書いたっけ?

 

シモカワ

新年の決意の話。

地元の駅の近くには大きな陸橋があって毎年お正月の朝は

そこに初日の出を拝みに行くのが恒例になっている。

(すごくよく朝日が見えるのに毎年意外と来ている人が少ない。謎だ。)

 

2011年の正月、一年後の自分が想像ができなかった。

2012年の正月、一年後の自分が想像ができなかった。

2013年の正月、一年後の自分が想像ができなかった。

2014年の正月、一年後の自分が想像ができなかった。

だけど

2015年の正月、一年後の自分が想像できてしまった。

 

そして事実2015年は概ね思っていたとおりに推移した。

それがスゴく嫌だった。曲がり角の先に何があるかわからない人生を選びたくてオレは東京に戻ってきたのではなかったか。いつからカーブの入り口にあるミラーをチラチラ見るようになってしまったのか。

だから2016年の1月1日、いつもの陸橋の上で”一年後の自分をビックリさせてやろう”と密かに決めたわけです。

 

2016年、四分の一が過ぎた。

そしてオレは今既にビックリしている。正月からは想像もできないことが起きている。

 

 

まさか財布と携帯を全部盗まれるなんて。

 

 

 

死っていつ訪れると思います?

忘れられたときに訪れるんですよ。

オレが忘れない限り、財布に入っていた現金とVANSのスマホケースを纏ったかわいいiPhoneは生き続けるんです。

 

オレはそう思っています。

 

シモカワ

 

ぼくの財布と携帯を盗んだ人の話。

2072年5月19日、俺は死んだ。

 

いい人生だった。

シンプルな言い方だけどそれに尽きる。最期の瞬間は娘の優子が右手を握ってくれていた。優子の指がこんなに繊細で美しい形をしていることを、もう少しだけ早く知りたかった…そんな穏やかな思考に導かれるように身体がフッと軽くなった。

 

気がつくと俺は真っ白な空間にいた。

地面も空もすべてが真っ白だ。きっとここがあの世(便宜上そう呼ぼう)なのだろう。

死んだ自覚はあってもどうしたらいいのかわからない。あてもなくフラフラと歩いていると遠くに二つの行列が見えた。目を凝らして見るとその列はそれぞれ二つのドアに続いているようだった。俺もあの列に並ぶのだろうか…? 心なしか足取りが速くなる。

 

行列に並んでいる人は皆俺と同じ白い服を着ている。全員死んでいるのだろう。

左の列に全体の九割が並び、右の列はまばらだった。

左の列の人は、和やかな顔をして談笑などをしている。

右の列の人は、緊張した面持ちであまり目つきがよくない人もいる。

どちらに並ぶべきか考えあぐねていると紺のスーツを着た男が近づいてきた。

どう考えてもスタッフだ、と俺は思った。

 

「おい、お前ここは初めてか?はやくどっちの列に並ぶか決めろ。左は天国行きで右は地獄行きだ

 

なるほどそういうことか。よくみるとドアの上にはそれぞれ明朝体とゴシック体で「天国」と「地獄」と書かれている。深いため息が出た。ここでわざわざ地獄を選ぶヤツなんているのだろうか? 少し呆れながら左側の列に並ぼうとしたその時だった。

 

「あー待て待て待て。お前はそっちはダメだ」

 

さっきのスタッフが分厚い帳簿のようなものを眺めながら俺の肩を掴んできた。

 

「なんだよ離してくれ。俺はこっちの列に並ぶよ」

 

びっくりしながら応えるとスタッフは妙なことを言い出した。

 

「お前は人生がんばったで賞ポイントがマイナスだから地獄行きだ」

 

人生がんばったで賞ポイント…?

意味がわからず呆然としているとスタッフは続けた

 

「いいか、人生がんばったで賞ポイントは今までの人生でいいことをしたら溜まり、悪いことをしたら減るポイントだ。例えば【サンマを綺麗に食べられたらプラス1点】自分のビニール傘じゃないと確信しているのに自分の持ってきたやつより丈夫そうだからこっちもらっちゃお!】みたいなことをするとマイナス2ポイントだ。お前はそれの総合点がマイナスだった」

 

「ちょっと待ってくれ、俺が何をしたと言うんだ?確かに幾つかの小さな過ちを犯してきたことは間違いない。でもそんなの人間誰しもそうだろう? それ以上に俺は一生懸命生きてきたし善行も重ねてきた自負がある。もう一度調べなおしてくれ。しかも人生がんばったで賞ポイントってネーミングはなんだ人生がんばったポイントじゃダメなのか?」

 

そう懇願するとスタッフは人差し指を俺の顔の前で突き立てながら厳しい表情でこう言った。

 

「確かにある出来事を除けばお前の総合点は問題なくプラスだった。何か思い出せることはないか?」

 

冷や汗が首筋を伝う。何も思い出せない。

大きな音を立てて唾を飲み込むとほぼ同時にスタッフの怒号が真っ白な空間に響いた。

 

「2016年3月25日の未明に京王井の頭線の車内で眠りこけている好青年の財布と携帯を盗んだだろ!!!あれでマイナス10万ポイント!!!!」

 

頭にカミナリが落ちたような衝撃を感じた。

そうだ…思い出した…まだ俺が若い頃の話だ。

 

「思い出したか?そういうわけでお前は右の列に並べ。後ろがつかえているから急げ」

 

腕を掴まれて、強引に右の列に放り込まれる。

左の列に比べると随分と人数が少ない。地獄へのドアまではあっという間だ。

最期に懺悔をしようと思っても俺にはあの青年の顔がぼんやりとしか思い出せない。

 

「あぁ、ごめんよごめんよ。ハッキリと顔が思い出せない青年。なんとなく伊勢谷友介に雰囲気が似ていたことだけしか思い出せない青年…」

 

声に出しても後の祭りだ。

そういえばあの朝はよく晴れていた。

そんなどうでもいいことはハッキリと思い出せるのに。

 

代筆・シモカワ

近所の蕎麦屋の話。

会社の近所によく行くチェーンの蕎麦屋さんがあるのだけど

そこにいるメガネをかけたプーさんみたいな体型の店長が最近そっけない。

 

前は「ごちそうさまー!」というと「ありがとうございました」と嫌々返してくれてたのに最近シカトされる…。他の人にはちゃんと挨拶してるのに。

 

なんで嫌われちゃったんだろうと考えてたんだけどそうじゃなくてこれはアレだ。

 

オレのこと彼女的な存在だと思ってんだな。

「オレの女には挨拶しねーよ。黙って蕎麦でも食ってろ!……ネギ多めに入れといたからよ」

みたいなね。彼女には三歩後ろを歩いていてほしい昔気質の人なのかも知れない。

 

ちなみにその店はネギ入れ放題です。ネギ多めか少なめかそれは自分で決めるのです。

そして恐らくオレのネギの投入量と店長の態度に因果関係があるのです。

 

松浦弥太郎さんのベーシックノートを読んでるんだけど、だんだん説教をされてるような感覚になって悲しくなってきています。

 

シモカワ